排便時の出血や痛み、恥ずかしくて受診をためらっていませんか。現役薬剤師が、病院で処方される痔の薬と市販薬の違い、使い分け、受診の目安をわかりやすく解説します。
「排便のときに血がついた」「肛門が痛い」——気になっていても、恥ずかしくてなかなか病院に行けない。そんな方は少なくありません。
実は痔は、とても多くの人が経験する身近な症状です。市販薬で様子を見ている方も多いと思いますが、「このまま様子を見ていいのか」「病院に行った方がいいのか」迷うこともあるのではないでしょうか。
この記事でわかること
- 病院で処方される痔の薬にはどんな種類があるか
- 市販薬でどこまで対応できるか、処方薬との違い
- 「恥ずかしいから」と我慢せず、病院へ行くべきタイミング
結論を先に
軽い出血や痛みなら、まず市販薬で10日ほど様子を見てもOKです。ただし、出血が続く・量が多い/いぼ痔が戻らない/10日たっても良くならないときは、我慢せず病院(肛門科)を受診しましょう。
執筆:薬剤師 しまさ(調剤薬局勤務)
痔(いぼ痔・きれ痔)とは?
痔とは、肛門まわりの血管の流れが悪くなったり、皮ふが切れたりして起こる症状をまとめた呼び方です。代表的なものが2つあります。
- いぼ痔(痔核):肛門の内側や外側に、こぶのようなふくらみができるもの
- きれ痔(裂肛):肛門の皮ふが切れてしまうもの
いぼ痔はさらに2つのタイプに分かれます。
- 内痔核:肛門の内側にできるタイプ。痛みを感じにくい場所なので、出血して初めて気づく方が多いです
- 外痔核:肛門の外側にできるタイプ。神経が集まっている場所なので、強い痛みが出やすいです
図:内痔核と外痔核の位置関係(歯状線を境に分かれる)
きれ痔(裂肛)は、排便のときにピリッとした鋭い痛みが走るのが特徴です。
原因としては、便秘や下痢のときに強くいきむこと、長時間座りっぱなしでいること、妊娠・出産などが挙げられます。誰にでも起こりうる、ごく身近な症状です。
たとえば「デスクワーク中心で便秘気味の方が、排便時の出血と軽い痛みが数日続いたので受診したら、いぼ痔(内痔核)と診断された」というのは、よくあるパターンです。多くの場合、いきなり手術ということはなく、まずは薬による治療から始まります。
病院ではどんな薬が処方される?
日本大腸肛門病学会が出している治療の手引き(ガイドライン2020年版・10ページ)には、こう書かれています。
「薬による治療は、腫れ・痛み・出血をやわらげる効果はあるが、慢性的に脱出する症状そのものを治す効果はない」
ここでは、実際によく使われる薬を4つのタイプに分けてご紹介します。
| タイプ | 薬の名前 | どんな薬? |
|---|---|---|
| 塗り薬・坐薬 (ステロイド入り) | 強力ポステリザン、プロクトセディル など | 炎症を抑えて、痛み・腫れをやわらげる。症状が強い時期によく効く |
| 塗り薬・坐薬 (ステロイドなし) | ボラザG など | むくみと痛みをやわらげる。ステロイドは入っていない |
| 飲み薬 | ヘモクロン など | 肛門まわりの血のめぐりを整えて、むくみをやわらげる |
| 便を柔らかくする薬 | 酸化マグネシウム など | 痔そのものの薬ではないが、便秘によるいきみを防ぐために一緒に使われることが多い |
それぞれの薬をくわしく解説
強力ポステリザン(ヒドロコルチゾン+大腸菌死菌浮遊液)
ステロイドの「炎症を抑える力」と、傷を治す力を助ける成分を組み合わせた塗り薬・坐薬です。ガイドラインには、ステロイド入りの薬は症状が強い時期によく効くと書かれています(ただし「これが一番」と順位をつけているわけではありません)。
📋 使い方:1日1〜3回、患部に塗るか、坐薬として入れます。
肛門まわりに結核・化膿性の感染症、ウイルス性の病気、水虫などのカビによる病気がある人/この薬やステロイドでアレルギーが出たことがある人
長い間使い続けると、体全体にステロイドを使ったときと似た症状が出ることがあるため、長く使い続けるのは避けます。また、まれに眼圧が上がって緑内障や白内障につながることがあるので、長期間使う場合は目の検査も意識してください。妊娠中は、治療の必要性が高いと医師が判断したときだけ使われます。
出典:強力ポステリザン軟膏・坐剤 添付文書
プロクトセディル(ヒドロコルチゾン+抗菌成分など)
ステロイドに、細菌をやっつける成分などを組み合わせた塗り薬・坐薬です。感染をともなう炎症にも使いやすいのが特徴です。
📋 使い方:1日1〜3回、患部に塗るか、坐薬として入れます。
この薬や食べ物でアレルギーが出たことがある人/肛門まわりに結核性の感染症、ウイルス性の感染症、水虫などのカビによる病気がある人
まれに、長い間たくさん使うことでホルモンのバランスに関わる副作用が出ることがあります。子どもが長く使うと発育に影響することがあるため、慎重に使う薬とされています。
出典:プロクトセディル軟膏・坐剤 添付文書
ボラザG(トリベノシド+リドカイン、ステロイドなし)
むくみをやわらげる成分(トリベノシド)と、痛みを感じにくくする成分(リドカイン)を組み合わせた塗り薬・坐薬です。ステロイドは入っていません。
📋 使い方:いぼ痔(内痔核)には1回1個を1日2回、朝と夕方に肛門の中に入れます。きれ痔や外側のいぼ痔には、1日2回、朝と夕方に患部へ塗るか入れます。
この薬の成分(トリベノシド、または麻酔の成分)でアレルギーが出たことがある人
まれにアナフィラキシー(顔やのどが腫れる、じんましん、息苦しさなど、全身に急に出る強いアレルギー反応)が起こることがあります。そのほか、発疹やかゆみ、刺激感、皮ふ炎、下痢、吐き気などが報告されています。妊娠中・授乳中は、使うかどうかを医師が判断します。
出典:ボラザG軟膏・坐剤 添付文書
ヘモクロン(トリベノシド)
飲むタイプの痔の薬です。肛門まわりの血のめぐりを整えて、むくみをやわらげる働きがあるとされています。
📋 使い方:1回1カプセルを1日3回、食後に飲みます。
この薬の成分でアレルギーが出たことがある人
まれに、赤い発疹が皮ふに広がる重い症状(多形紅斑)が起こることがあります。発疹が広がる、熱が出るなど「いつもと違う」と感じたら、早めに医師・薬剤師に連絡してください。そのほかの副作用(発疹、かゆみ、腹痛、吐き気など)は、比較的よく報告されますが、軽い範囲におさまることが多いとされています。血をサラサラにする薬(ワルファリンなど)を使っている方は、薬の効きが強くなることがあるため注意が必要です。ほかの薬や食べ物でアレルギーが出たことがある方、ぜんそくやアレルギー性鼻炎がある(あった)方は、発疹などのアレルギー症状が出やすい傾向があるとされています。
出典:ヘモクロンカプセル200mg 添付文書
酸化マグネシウムなどの便を柔らかくする薬
痔そのものを治す薬ではありませんが、便秘によるいきみは痔を悪化させる原因になるため、便通を整える目的で一緒に使われることがあります。
腎臓の働きが弱い方・高齢の方・長く飲んでいる方は、血液中のマグネシウムが増えすぎる「高マグネシウム血症」が起こりやすく、まれに不整脈などの重い症状につながることもあります。定期的に医師・薬剤師に相談してください。
出典:PMDA「酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い」
薬の使い分け|どうやって選ばれている?
同じガイドライン(10ページ)には、成分ごとの役割の違いも書かれています。
- ステロイド:症状が強い時期によく効く。ただし長く使うと、まれに皮ふが荒れることがある
- トリベノシド(ヘモクロンの成分):むくみをやわらげる
- 局所麻酔の成分:痛みをやわらげる
- ビスマス系の成分:出血をやわらげる
多くの場合、これらの成分を組み合わせた塗り薬・坐薬を中心に、必要に応じて飲み薬も組み合わせます。
ヘモクロンのように血のめぐりを整えるタイプの飲み薬について、海外で行われた研究(14件・患者さん1,514人分をまとめた解析、2006年発表)では、こんな結果が報告されています。
- 「症状がまったく良くならない」人の割合が、飲まなかった場合と比べて約半分に下がった
- 出血や、続く痛み、かゆみについても、改善の傾向がみられた
ただしこの研究は「フラボノイド系」という、ヘモクロンとは化学構造が少し違う仲間の薬についての結果です(ヘモクロンも同じ目的で使われています)。また、研究ごとに結果のばらつきが大きく、「絶対に効く」と言い切れるほど強い根拠ではない、という指摘もあります。なお、フラボノイド系の薬は妊娠中の安全性が十分に確認されていない、とも報告されています。
塗り薬についても、ボラザGと同じ組み合わせ(トリベノシド+リドカイン)に関する研究(2016年発表)では、「使い始めてから数分程度で、痛みやかゆみが和らぎ始める」と報告されています。ただし効き方には個人差があります。
「ステロイド入りの薬」と「ステロイドを含まない薬」、どちらの効果が優れているかを直接比べたデータは見当たりませんでした。実際には、症状の強さ・妊娠中かどうか・長く使う必要があるかどうかを見て、医師・薬剤師が選んでいます。
市販薬(OTC)で対応できる?
痔は、市販薬でも対応できることが多い症状です。病院の薬と同じ考え方の成分を含む市販薬が売られています。
| 病院の薬(成分のタイプ) | 近い市販薬の例 | ポイント |
|---|---|---|
| ステロイド+麻酔成分 | ボラギノールA など | ステロイド+痛み止めの組み合わせで、病院の薬と考え方は同じ |
| ステロイドなし | ボラギノールM、ヂナンコーマイルド など | 妊娠中や、ステロイドを避けたい方の選択肢に(病院で処方されるボラザGも同じくステロイドなし) |
ステロイドを避けたい場合、市販薬にも病院の薬にも選択肢があります。「病院の薬の方が必ず強くて優れている」わけではなく、目的や体質に合わせて選べる、というのが実際のところです。
選び方の目安としては、痛みや腫れが強いときはステロイド入りタイプ、妊娠中や肌が敏感な方はステロイドなしタイプ、というように選ぶ方法があります。坐薬は肛門の内側の症状に、塗り薬は外側の症状に使いやすいとされています。迷ったら、薬剤師に相談してみてください。
市販薬は、あくまで一時的に症状をやわらげるためのものです。
ボラギノールA軟膏の添付文書には「10日間くらい使っても症状が良くならない場合は使用をやめて、医師・薬剤師・登録販売者に相談すること」と書かれています。市販薬を使い続けても改善しないときは、この目安を参考に受診を考えてください。
注意
妊娠中・授乳中の方は、市販薬であっても使う前に医師・薬剤師に相談することをおすすめします。
こんなときはすぐ病院へ(受診の目安)
次のようなときは、市販薬で様子を見ずに、早めに受診してください。
🚩 受診のサイン
- 出血が続く、または量が多い
- いぼ痔が外に出たままで、戻らない
- 市販薬を10日ほど使っても症状が良くならない
- 急にお通じの調子が変わった、原因不明で体重が減った
特に、お通じの調子の変化や体重減少をともなう出血は、痔以外の病気が隠れていることもあるため、自己判断せず病院で確認してもらうことが大切です。受診先は、肛門科や、大腸・肛門を専門とするクリニック。近くになければ、消化器内科や外科でも相談できます。
まとめ
- 痔は多くの人が経験する身近な症状。恥ずかしさから受診を避ける必要はない
- 病院では、ステロイド入り・ステロイドなしの塗り薬や坐薬を中心に、必要に応じて飲み薬も組み合わせる
- 市販薬でも対応できることが多く、ステロイドを避けたい場合も市販薬・病院の薬どちらにも選択肢がある
- 市販薬を10日ほど使っても良くならない、出血が続く・量が多いときは受診を
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療にかわるものではありません。症状が続く場合や気になることがある場合は、医師または薬剤師にご相談ください。
参考文献(出典)を見る
- 日本大腸肛門病学会. 肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版 改訂第2版.2020年1月.p.9-10(保存的治療).https://www.coloproctology.gr.jp/uploads/files/journal/koumonshikkan_guideline2020.pdf(「病院ではどんな薬が処方される?」「薬の使い分け」で引用)
- 強力ポステリザン軟膏 添付文書.PMDA添付文書(禁忌・用法用量・眼圧上昇リスクを含め「強力ポステリザン」の項で引用)
- プロクトセディル軟膏・坐剤 添付文書.日経メディカル処方薬事典(「プロクトセディル」の項で引用)
- ボラザG軟膏 添付文書.MEDLEY(「ボラザG」の項で引用)
- ネリプロクト軟膏・坐剤 製造販売中止のお知らせ(2022年5月)・製造販売中止および経過措置期間に関するご案内(2022年10月).レオ ファーマ株式会社/LTLファーマ株式会社.https://www.ltl-pharma.com/common/pdf/221012_neriproct.pdf(2023年3月末で経過措置終了・販売中止のため本文からは削除し、代替品のボラザGに差し替え)
- ヘモクロンカプセル200mg 添付文書.日経メディカル処方薬事典(「ヘモクロン」の項で引用)
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い―高マグネシウム血症―.2020年8月.https://www.pmda.go.jp/files/000235889.pdf(「酸化マグネシウムなどの緩下剤」の項で引用)
- Alonso-Coello P, Zhou Q, Martinez-Zapata MJ, et al. Meta-analysis of flavonoids for the treatment of haemorrhoids. Br J Surg. 2006;93(8):909-920.(14試験・1,514例、相対リスク0.42等の数値).https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16736537/(「薬の使い分け」内、フラボノイド系薬のメタ解析として引用)
- Lorenc Z, Gökçe Ö. Tribenoside and lidocaine in the local treatment of hemorrhoids: an overview of clinical evidence. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2016.https://www.europeanreview.org/article/11037(「薬の使い分け」内、トリベノシド+リドカイン配合剤のレビューとして引用)
- ムネ製薬 ヂナンコーマイルド 製品情報.https://www.mune-seiyaku.co.jp/product/jinankomild.html(「市販薬(OTC)で対応できる?」の表内で引用)
- ボラギノールM軟膏 製品情報.https://www.borra-brand.com/shop/pages/borraginol_nanko_m(「市販薬(OTC)で対応できる?」の表内で引用)
- ボラギノールA軟膏 添付文書.https://medley.life/medicines/otc/E00270008031/(「市販薬(OTC)で対応できる?」の表内、および「10日ほど使っても改善しない場合は受診」の目安として引用)

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