薬剤師が解説】中高年男性の排尿困難(前立腺肥大症)に処方される薬と市販薬でできること

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「トイレに行っても、勢いが弱くてスッキリしない」「夜中に何度もトイレで目が覚める」——年齢を重ねた男性なら、一度は感じたことがある悩みではないでしょうか。

実はこれ、多くの場合「前立腺肥大症」という、加齢に伴ってとても起こりやすい変化が関係しています。恥ずかしくて誰にも相談できず、我慢している方も多いのですが、飲み薬でかなり症状を和らげられるケースがあります。

この記事でわかること

  • 病院で処方される排尿困難の薬にはどんな種類があるのか
  • 同じタイプの薬でも、なぜ人によって処方される薬が違うのか
  • 市販薬でどこまで対応できるか、すぐ病院に行くべきサインは何か

結論を先に

中高年男性の排尿困難の多くは前立腺肥大症に伴うもので、「尿道の締め付けをゆるめる薬」と「前立腺そのものを小さくする薬」を、症状や前立腺の大きさに応じて使い分けるのが基本です。同じ系統の薬でも副作用の出やすさに違いがあり、効果に大きな優劣はつけがたいというのが診療ガイドラインの立場です。市販薬に処方薬と同じ成分はなく、急に尿が出なくなった場合はすぐに病院を受診してください。

執筆:薬剤師 しまさ(調剤薬局勤務・現役薬剤師)

① 排尿困難とは?

「排尿困難」とは、尿が出にくい、勢いが弱い、出し切れた感じがしないといった症状の総称です。中高年男性でよくみられるのは、前立腺という膀胱のすぐ下にある臓器が加齢とともに大きくなり、その中を通る尿道を圧迫してしまう「前立腺肥大症」に伴うものです。

男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン(日本泌尿器科学会)では、こうした症状を訴える50歳以上の男性を対象に、まず問題のある症状(尿が急に出なくなった、血尿があるなど)がないかを確認したうえで、前立腺肥大症が原因と推定される場合には、本人の希望や症状の重さに応じて治療を検討する、という流れが示されています。

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② 病院ではどんな薬が処方される?

ガイドラインでは、薬物療法の基本方針が次のように示されています。

ステップ内容
基本α1遮断薬 または PDE5阻害薬(尿道の締め付けをゆるめる薬)
前立腺が大きい場合(30mL以上)5α還元酵素阻害薬(前立腺を小さくする薬)を併用・変更
頻尿や尿意切迫感が強い場合抗コリン薬・β3作動薬を併用

つまり、まずは「尿道の締め付けをゆるめる薬」から始め、前立腺の大きさや他の症状に応じて薬を追加していく、という考え方です。

③ それぞれの薬をくわしく解説

α1遮断薬(尿道の締め付けをゆるめる薬)

前立腺や尿道の周りの筋肉は、「α1受容体」というスイッチが刺激されると収縮します。α1遮断薬はこのスイッチをブロックすることで、筋肉の緊張をゆるめ、尿の通り道を広げる薬です。代表的なものに、タムスロシン(ハルナールD)、シロドシン(ユリーフ)、ナフトピジル(フリバス)があります。

いずれも1日1〜2回、食後に服用します。血管を広げる作用もあるため、立ちくらみやめまいが起こることがあり、特に降圧薬を飲んでいる方は注意が必要です。高齢の方は、こうしためまい・立ちくらみが転倒やケガのきっかけになりやすいとされているので、急に立ち上がらないなど日常の動作にも気をつけていただくと安心です。

PDE5阻害薬(血流を良くして症状を和らげる薬)

タダラフィル(ザルティア)は、もともと勃起障害の治療薬として使われている成分ですが、前立腺肥大症に伴う排尿障害にも、用法・用量を変えた製剤として承認されています。前立腺や膀胱の血流を改善し、筋肉の緊張をゆるめることで症状を和らげると考えられています。1日1回の服用です。

タダラフィルは、狭心症の治療で使われる硝酸剤(ニトログリセリンなど)と一緒に使うと、血圧が下がりすぎる危険があるため併用できません。心臓の治療を受けている方は、必ず医師・薬剤師に伝えてください。

5α還元酵素阻害薬(前立腺そのものを小さくする薬)

デュタステリド(アボルブ)は、前立腺が大きくなる原因となるホルモンの働きを抑えることで、前立腺そのものを縮小させる薬です。効果を実感するまでに通常6ヵ月ほどかかるとされており、即効性のあるα1遮断薬とは性質が異なります。

この薬は、前立腺がんの検査に使うPSA(前立腺特異抗原)の値を服用開始から6ヵ月後には約半分に下げることがわかっています。定期的に前立腺がん検診を受けている方は、この薬を飲んでいることを必ず医師に伝えてください。また、皮膚から吸収される性質があるため、カプセルから漏れた薬に女性やお子さんが触れないよう保管にも注意してください。

④ 薬の使い分け|どうやって選ばれている?

「なぜ自分にはこの薬が処方されたんだろう」と疑問に思う方も多いと思いますので、使い分けの考え方を紹介します。

α1遮断薬3種類、何が違う?

ガイドラインでは「α1遮断薬3種類(タムスロシン・シロドシン・ナフトピジル)の効果に明らかな差はないが、個人差はある」とされています。つまり、効きめそのものよりも、副作用の出やすさで使い分けられることが多いということです。

薬剤特徴
タムスロシン起立性低血圧(立ちくらみ)が比較的少ないとされる
シロドシン排尿症状の改善効果が高い一方、添付文書に「特徴的な副作用」として射精障害・ふらつきが明記されている
ナフトピジル複数の比較研究で、射精に関する副作用の報告がほかの2剤より少ない傾向

射精に関する副作用(射精した精液の量が減る、射精を感じにくくなるなど)は、いくつかの臨床試験で薬による頻度の差が報告されています。この点を気にされる方は、遠慮せず医師や薬剤師に相談してみてください。

PDE5阻害薬(タダラフィル)はどんな人に向く?

ガイドラインでは、α1遮断薬とタダラフィルの効果はほぼ同等で、優劣をつけるのは難しいとされています。ED(勃起障害)の悩みも合わせて持っている方には選択肢のひとつになりますが、前述のとおり心臓の薬との飲み合わせには注意が必要な薬です。

前立腺が大きい方への5α還元酵素阻害薬の併用

前立腺の体積が30mL以上ある場合、α1遮断薬に5α還元酵素阻害薬(デュタステリド)を併用すると、どちらか一方だけを使うより症状の改善効果が高く、将来的に尿が出なくなる(尿閉)リスクや手術が必要になるリスクを下げられることが、大規模な臨床試験で報告されています。

ただし、どの薬をどう組み合わせるかは、症状の強さ・前立腺の大きさ・他に飲んでいる薬・生活への影響などを総合的にみて、最終的には医師が判断します。

⑤ 市販薬(OTC)で対応できる?

ここまで紹介したα1遮断薬・PDE5阻害薬・5α還元酵素阻害薬は、いずれも医療用医薬品のみで、同じ成分の市販薬はありません。

市販薬(OTC)の選択肢としては、八味地黄丸をベースにした生薬製剤(ハルンケアなど)があり、「体力の低下、下半身の衰え、手足の冷えを伴う」軽い尿もれ・頻尿・残尿感・尿の出渋りの緩和という位置づけで販売されています。

こうした市販薬には「前立腺肥大症等により、少量ずつ常に尿がもれる方は服用しないでください」という注意書きがあります。これは、尿が出せずに少しずつあふれてしまう状態(尿閉に近い状態)を自己判断で放置してしまう危険があるためです。この症状がある方は、市販薬に頼らずすぐに受診してください。

市販薬を試す場合も「14日間くらい服用しても症状が良くならなければ中止して相談する」という目安が添付文書に示されています。

⑥ こんなときはすぐ病院へ(受診の目安)

次のような症状があるときは、市販薬で様子を見ず、早めに泌尿器科を受診してください。

  • 尿が全く出なくなった(尿閉)
  • 目で見てわかるほどの血尿がある
  • 発熱を伴う、繰り返す尿路感染症がある
  • 下腹部がふくらんで苦しい
  • 少しずつ常に尿がもれてしまう(あふれるような尿もれ)

まとめ

  • 中高年男性の排尿困難の多くは前立腺肥大症に伴うもので、まずはα1遮断薬またはPDE5阻害薬から治療が始まります
  • 前立腺が大きい場合は、前立腺を縮小させる5α還元酵素阻害薬を併用することがあります
  • 同じ系統の薬でも副作用の出やすさに違いがあり、症状や体質に応じて使い分けられています
  • 市販薬に処方薬と同じ成分の薬はなく、尿が出ない・血尿があるなどのサインがあれば早めに受診しましょう

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療にかわるものではありません。症状が続く場合や気になることがある場合は、医師または薬剤師にご相談ください。

参考文献

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