【薬剤師が解説】夜間頻尿に処方される薬と市販の漢方薬でできること

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「夜中に何度もトイレに起きてしまい、ぐっすり眠れない」——年齢のせいだから仕方ない、と諦めている方も多いのではないでしょうか。

実はこの「夜間頻尿」、原因は1つではありません。原因によって、病院で処方される薬もまったく違います。まずはそこから知っておいてほしいと思います。

この記事でわかること

  • 夜間頻尿の原因にはどんな種類があり、それぞれどんな薬が処方されるか
  • 市販の漢方薬でどこまで対応できるか、処方薬との違い
  • 自己判断で様子を見るのが危険なケース

結論を先に

夜間頻尿は、前立腺肥大症・過活動膀胱・夜間多尿(夜間に作られる尿の量が多い)など、原因によって処方される薬の種類が異なります。市販の漢方薬は、診療ガイドライン上「効果を示す報告はあるが、根拠は十分とはいえない」という位置づけです。血尿がある、昼間も頻尿がある、といった場合は、市販薬だけに頼らず早めに受診しましょう。

執筆:薬剤師 しまさ(調剤薬局勤務)

夜間頻尿とは?

夜間頻尿とは、「夜、眠ってから朝起きるまでの間に、排尿のために1回以上起きなければならない」状態のことをいいます。加齢とともに増える、代表的な排尿の悩みのひとつです。

ここで大事なのは、夜間頻尿の原因は1つではないということです。日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会が作成した診療ガイドラインでは、原因を大きく3つに整理しています。

夜間頻尿 前立腺肥大症 (男性)尿の通り道が 狭くなり膀胱が過敏に 過活動膀胱 少ない尿量でも膀胱が 勝手に収縮してしまう 夜間多尿 夜のあいだに作られる 尿の量そのものが多い 睡眠障害(尿意と関係なく目が覚め、ついでにトイレに行く) が関わっていることもあり、複数の原因が重なる場合も少なくない

図:夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]の内容をもとに、代表的な原因を整理したもの

原因によって、体で起きていることも、有効な薬もまったく違います。「夜間頻尿にはこの薬」という単純な話ではない、という点を押さえておいてください。
出典:夜間頻尿診療ガイドライン[第2版](日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編)

病院ではどんな薬が処方される?

原因ごとに、代表的な処方パターンを3つに分けてご紹介します。

考えられる原因代表的な薬どんな薬?
前立腺肥大症(男性)タムスロシン(ハルナールD)、シロドシン(ユリーフ)、ナフトピジル(フリバス)など前立腺まわりの筋肉の緊張をゆるめ、尿を出しやすくする(α1遮断薬)
過活動膀胱ミラベグロン(ベタニス)、抗コリン薬など膀胱の過敏な収縮を抑え、尿をためやすくする
夜間多尿①生活指導(飲水・塩分制限)→改善しなければ②デスモプレシン(ミニリンメルト、男性のみ)夜間に作られる尿の量そのものを減らす

このほか、睡眠が浅いことが関係している場合は睡眠に関する治療が検討されることもあります。診察では、まずどの原因が中心になっているかを見極めることが治療の第一歩になります。

夜間多尿タイプは、まず生活習慣の見直しから

夜間に作られる尿の量が多いタイプでは、薬の前にまず生活習慣の見直しが基本になります。診療ガイドラインでは、1日の尿量が体重の2〜2.5%程度(体重60kgなら1日1.2〜1.5L程度が目安)になるよう水分の摂りすぎ・摂らなさすぎを避けることや、塩分を1日6g未満程度に控えることが勧められています。日本人の塩分摂取量の平均は男性10.8g、女性9.1gとされ、多くの方がこの目安を超えているのが実情です。これらを見直しても改善しない場合に、薬による治療が検討されます。

それぞれの薬をくわしく解説

タムスロシン(ハルナールD/前立腺肥大症の薬)

前立腺のまわりの筋肉の緊張をゆるめて尿道を広げ、尿を出しやすくする薬(α1遮断薬)です。前立腺肥大症に伴う排尿障害に対して効能・効果が認められています。

同じ仲間の薬として、シロドシン(ユリーフ)やナフトピジル(フリバス)もよく使われます。効き方の細かな特徴に違いはありますが、いずれも前立腺まわりの筋肉をゆるめる薬という位置づけは共通しています。

📋 使い方:タムスロシンの場合、通常1日1回0.2mgを食後に服用します。腎機能が低下している高齢の方は、0.1mgという少ない量から始めて、様子を見ながら増やしていきます。

⚠ 注意したいこと

この薬の成分にアレルギーが出たことがある人は使えません。血圧を下げる薬と一緒に飲むと、立ちくらみ(起立性低血圧)が強く出ることがあります。まれに、血圧低下による一時的な意識消失が起こることもあるとされています。

なお、これらはいずれも前立腺肥大症に対する薬のため、女性への保険適用はありません。診療ガイドラインにも「本邦では、タムスロシン、ナフトピジル、シロドシンなどの女性に対する保険適用はない」と明記されています。
出典:ハルナールD錠0.2mg 添付文書/夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]p.38

ミラベグロン(ベタニス/過活動膀胱の薬)

膀胱の筋肉に作用して、膀胱が過敏に収縮するのを抑え、尿をためやすくする薬(β3作動薬)です。過活動膀胱による尿意切迫感・頻尿・切迫性尿失禁に効能・効果が認められています。

📋 使い方:通常、1日1回50mgを食後に服用します(肝臓の機能が中程度低下している場合は25mg)。

⚠ こんな人は使えません

この薬の成分にアレルギーが出たことがある人/重篤な心臓の病気がある人/妊娠中または妊娠している可能性がある人/授乳中の人/重度の肝機能障害がある人/一部の不整脈の薬(フレカイニド、プロパフェノン)を使っている人

まれに、尿が出にくくなる(尿閉)ことや、血圧が大きく上がることがあるとされています。高齢の方では、口の渇きや便秘が出やすい抗コリン薬より、こちらの薬が選ばれることもあります。
出典:ベタニス錠50mg 添付文書

デスモプレシン(ミニリンメルトOD/夜間多尿の薬)

体内で尿の量を調節するホルモンの働きを補い、夜間に作られる尿の量そのものを減らす薬です。「男性における夜間多尿による夜間頻尿」にのみ効能・効果が認められています(女性への適応はありません)。使う前に、夜間に作られる尿の割合が一定以上多いことなどを確認したうえで処方されます。

📋 使い方:就寝前に1日1回、通常50μgを服用します。高齢者など低ナトリウム血症が起こりやすいと考えられる場合は、25μgという少ない量から開始することがあります。

⚠ こんな人は使えません

低ナトリウム血症(血液中の塩分濃度が低い状態)やその既往がある人/水を過剰に飲む習慣がある人/心不全またはその疑いがある人/利尿薬による治療が必要なほどむくみがある人/中等度以上の腎機能低下がある人/チアジド系・ループ利尿薬を使用している人/副腎皮質ステロイド剤(飲み薬・注射・吸入薬・坐薬など。塗り薬・軟膏は含まれません)を使用している人

この薬は、水分の摂りすぎと重なると、血液中の塩分濃度が下がる「低ナトリウム血症」を起こすことがあり、まれに意識障害やけいれんに至ることもあるとされています。服用中は、就寝前の水分の摂りすぎに注意し、頭痛やだるさなど普段と違う症状があれば早めに相談してください。

特に注意したいのが、ステロイド剤との飲み合わせです。関節や肩の注射で使われるステロイド(トリアムシノロンアセトニドなど)をはじめ、飲み薬・注射・吸入薬・坐薬など幅広いステロイド剤が、この薬と一緒には使えない薬として添付文書に明記されています(皮膚に塗るステロイドの塗り薬・軟膏は対象に含まれません)。整形外科や皮膚科など他の診療科にかかっている場合も、お薬手帳などで必ず情報を共有しましょう。
出典:ミニリンメルトOD錠 患者向医薬品ガイド(PMDA)

薬の使い分け|どうやって選ばれている?

「なぜ同じ夜間頻尿でも人によって処方される薬が違うのか」——これは、日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会の診療ガイドラインが、原因ごとに薬の効果の根拠(エビデンス)の強さを整理していることによります。

考えられる原因治療ガイドラインでの推奨の強さ
前立腺肥大症α1遮断薬(タムスロシンなど)B(一定の効果が期待でき推奨)
過活動膀胱抗コリン薬A(効果があり推奨)
過活動膀胱β3作動薬(ミラベグロンなど)A(効果があり推奨)
夜間多尿飲水・塩分の生活指導A(効果があり推奨)
夜間多尿(男性)デスモプレシンA(効果があり推奨)
原因を問わない市販の漢方薬・サプリメントC2(根拠が十分とはいえない)

※表の推奨の強さは、それぞれ「過活動膀胱による夜間頻尿」「前立腺肥大症による夜間頻尿」「夜間多尿による夜間頻尿」というように、原因ごとに評価されたものです。原因が違えば比べる土俵も違うため、単純にA・B・C2の記号だけを横並びで比較するものではありません。

興味深いのは、同じ「推奨A」でも中身が違うという点です。過活動膀胱に対する抗コリン薬とβ3作動薬はどちらも推奨グレードAですが、高齢の方では、口の渇きや便秘、まれに認知機能への影響が指摘される抗コリン薬より、そうした影響が少ないとされるβ3作動薬が選ばれることがある、とガイドラインに記載されています。

最終的にどの薬を選ぶかは、症状の経過や検査結果を見ながら医師が判断します。

市販薬(OTC)で対応できる?

夜間頻尿に対する市販薬としては、八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)といった漢方薬がよく知られています。ドラッグストアでも購入できます。

市販の漢方薬効能・効果(一部抜粋)使用の目安
八味地黄丸体力中等度以下で、疲れやすく、四肢が冷えやすい人の、排尿困難・残尿感・夜間尿・頻尿・むくみなど1日2回、食前に服用
牛車腎気丸八味地黄丸に近い効能に加え、下肢のしびれ・むくみなど1日2〜3回、食前または食間に服用(製品による)

ここで正直にお伝えしておきたいことがあります。前述の診療ガイドラインでは、これらの漢方薬について次のように評価されています。

「様々なサプリメントや漢方薬が存在し、夜間頻尿に効果的との報告はあるが、複数の大規模なランダム化比較試験で裏付けられたものはなく、効果に一貫性があるとはいえない」(推奨グレードC2)

つまり、「まったく効かない」という意味ではありませんが、病院で処方される薬(α1遮断薬や抗コリン薬など)ほど、しっかりした比較試験で効果が確認されているわけではない、ということです。試してみる価値がないわけではありませんが、この温度感を知ったうえで選んでいただきたいと思います。

市販薬を使う場合の目安

八味地黄丸の添付文書には「1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、医師、薬剤師または登録販売者に相談すること」と記載されています。この目安を過ぎても改善しない場合は、原因をきちんと調べるためにも受診をおすすめします。

また、胃腸が弱い方・下痢しやすい方は、これらの漢方薬の服用を避けるよう添付文書に記載されています。

注意
妊娠中・授乳中の方は、市販薬であっても使用前に医師・薬剤師に相談することをおすすめします。

こんなときはすぐ病院へ(受診の目安)

次のようなときは、市販薬で様子を見ずに、早めに泌尿器科などを受診してください。

🚩 受診のサイン

  • 目で見てわかるほどの血尿がある
  • 尿が出にくい、出し切れない感じが強い(尿閉の可能性)
  • 排尿時・射精時に痛みや不快感がある
  • 夜間だけでなく昼間も頻尿がある(多尿や糖尿病など他の病気が隠れている可能性)
  • 発熱をともなう、尿がにごる
  • 市販薬や生活習慣の見直しを試しても、症状が変わらない・悪化する

特に「昼間も頻尿」がある場合は、糖尿病や心臓・腎臓の病気が関わっていることもあり、泌尿器科だけでなく内科での検査が必要になることもあります。「年齢のせいだから」と自己判断せず、気になる症状があれば一度受診することをおすすめします。

まとめ

  • 夜間頻尿の原因は、前立腺肥大症・過活動膀胱・夜間多尿など人によって異なり、処方される薬もそれぞれ違う
  • 病院では、原因に応じてα1遮断薬、抗コリン薬やβ3作動薬、デスモプレシンなどが使い分けられる
  • 市販の漢方薬(八味地黄丸・牛車腎気丸など)は、診療ガイドライン上「効果を示す報告はあるが根拠は十分でない」という位置づけ。1ヵ月ほど試して変化がなければ受診の目安に
  • 血尿や昼間の頻尿、症状の悪化があれば、市販薬に頼らず早めに受診を
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中高年男性の夜間頻尿は、前立腺肥大症が背景にあることも少なくありません。おしっこの勢いの弱さなども気になる方は中高年男性の排尿困難(前立腺肥大症)の薬もご覧ください。

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療にかわるものではありません。症状が続く場合や気になることがある場合は、医師または薬剤師にご相談ください。

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